イギリスのハードロックバンド、ウィッシュボーン・アッシュ(Wishbone Ash)のライブでは、アンディ・パウエルとテッド・ターナーのツインリードギターの名演が堪能できる『ライヴ・デイト』(1973)が、ロック史上有数のライブアルバムとされています。
あなたが、18歳から23歳位の年齢だとします。性別は問いません。
浜省(浜田省吾さん)の「ラスト・ショー」よろしく、明け方にお父様のお車を無断で借り出して、彼氏あるいは彼女とドライブする際に、公立図書館で借りてきたようなロック史上に残る名盤、例えばウィッシュボーン・アッシュの『ARGUS(百眼の巨人アーガス)』(リマスターされていないオリジナルのCD)を、カーステレオでかけるのは考え物かもしれません。
クラシックロックとは文字通りクラシックなポップスであり、数十年前に『初CD化』された音源が結構レンタルCDショップや公立図書館にあったりします。
ポピュラー音楽史上に残る名演・名盤の類、例えば、チャーリー・パーカーでもMJQ(モダン・ジャズ・カルテット)でもマイルス・デイヴィスでもヤードバーズでもクイック・シルヴァー・メッセンジャー・サーヴィスでもCSN&Y(クロスビー・スティルス・ナッシュ・アンド・ヤング)でも、同乗者から、「変!」「古くさい!」と却下される可能性はなきにしもあらずです。
素直にヒゲダン(Official髭男dism)やマカロニえんぴつやSHE'Sをかけた方が無難なのでしょうか?
あるいはバイト先で知り合ったちょっとトッポイ感じもする彼、彼女なら、LDH系か、BLACKPINK(ブルピン)やBTS(防弾少年団)が良いでしょうか?
知らない。自己責任で決めてくださいね。前の日までにlineで聞いておきましょう。
そういうわけで、先日、たまたま私の手元に、ウィッシュボーン・アッシュのライブテイク集(『TRACKS - WISHMONE ASH LIVE HISTORY』、以下『TRACKS』)が来たんですけど(VOL.1、VOL.2のみ、VOL.3まであります)、いや、良いですねこれ。
『TRACKS』、チョットググると、評判はなはだよろしくありません。
まぁ、もちろん、ウィッシュボーン・アッシュの熱心なファンの方なら、30枚組のボックスセット(『The Vintage Years 1970-1991』)を購入されていることでしょう。
『TRACKS』の評判が悪い原因は、要するに幅広い年代の録音であり、そして、キャリアの長いバンドに多い、それぞれの時期で異なるメンバーによる録音の寄せ集めなんです。
録音時期が、1972年から2002年まで(VOL.1、VOL.2)って、めちゃくちゃですがな。30枚組ボックスセットが<1970~1991>なのに。
しかし、逆にそこが良かった。
クラシックロックのラジオ局から流れる様々なバリエーションのハードロック曲、あるいはFEN(現AFN)の往年のキング・ビスケット・ショーのような、ライブ録音を流す番組のようなイメージ。
日本のバブル経済時代の憧れのオーディオシステム、CDチェンジャーに、二桁のCDをぶち込んで、ランダムあるいはプログラミング再生した時のような、とっ散らかり感がGOODです。
当時のカーオーディオの高級CDチェンジャーシステムは、軽く30万円以上とかしたんじゃないでしょうか。
でも、当時のCDチェンジャーシステムは決定的な弱点は、CD毎の録音レベル(ボリュームの大きさ)がマチマチなのが、そのまま再生されることでした。
結局は、カセットテープデッキで、CD一枚一枚毎にレベルを補正しながら録音しないと、ノリのいい選曲の音源集は作れなかったのですよね。
『TRACKS』、まがりなりにも商品として、同じCDシリーズに収録するにあたって、エンジニアが録音レベルを揃えています。自ら集めた寄せ集め音源集ではこうはいきません。
世間の評価、メディア・マスコミの評価、評論家の評価等は、自分の評価にあらず。
音楽でも何でもそうなんでしょうけど、他人の評価から、参考以上に影響を受けてしまうと、自分にとって良いものにたどり着けなくなってしまいます。
HR/HM(ハードロック・ヘヴィメタル)のツインリードギターの歴史というのは、「ウィッシュボーン・アッシュ」 →「シン・リジィ」 → 「アイアン・メイデン(NWOBHM)やジャーマン・メタルや北欧メタルやメロディック・スピード・メタルやパワーメタル等」という流れで現代まで続いているのでしょう。
博多出身の嬢メタルバンド、BRIDEARのサウンドがなかなかに好きなんですけど、「ああ、このツインリードのドライブ感が、どことなくシン・リジィを感じさせるのかもしれない」と気付きました。
ボーカルのKIMIのメタルっぽくない、歌謡曲やJ-POPに通じる歌唱も、ストリートロックンロール的テイストを醸しだすのに貢献しているように感じます。
◆ジョン・マクフィー(ドゥービー・ブラザーズ、ex.クローヴァー、サザン・パシフィック、矢沢永吉バンド)
John: シン・リジィは最高のバンドだったね。あのツアーは、私にとってカルチャー・ショックだった。私はずっとカントリーから影響を受けてきて、クローヴァーにもカントリーの要素を取り入れていった。いわばヒルビリーの田舎者だったんだ。そんな私にとって、シン・リジィのワイルドなハード・ロックは衝撃だった。特にリーダーのフィル・ライノットのカリスマ性はインパクトがあったよ。彼は真のロック・スターだったんだ。その一方で、フィルは誰よりも暖かい人物だった。彼はヘッドライナーのフロントマンだったけど、普通の人間として我々に接してくれたんだ。ツアーの最終日、フィルは私に彼の詩集をくれて、「一緒にツアー出来て楽しかった。どうも有り難う」と言ってくれたよ。彼のサイン入り詩集は、宝物にしている。シン・リジィの『ライヴ・アンド・デンジャラス』の感謝リストに、クローヴァーの名前があることは、今でも誇りにしているよ。
◆Thin Lizzy - The Boys Are Back In Town
シン・リジィのフィル・ライノットの、字余りの『詩』(フィル・ライノットは詩集を3冊出しています)を、強引にロックンロールやリズム&ブルースに載せることによって、疾走感溢れるロックを実現する独特のスタイルは、アメリカのブルース・スプリングスティーンらストリート・ロックンローラー勢とも共通しているように感じます。
シン・リジィが、後進のハードロック・ヘヴィメタル勢に大きな影響を与えながらも、他のハードロック・ヘヴィメタルのバンドとは全く異なる(BAND-MAIDの小鳩ミクさんも提唱されているような)『ワン&オンリー』のバンドである原因の一つかもしれません。
そしてブラック・ミュージックのルーツを隠せない音楽性は、フランキー・ミラー、グレアム・パーカーら英国のいぶし銀のパブ・ロック勢に通じます。
日本のストリート・ロックンローラー代表、ハマショーこと浜田省吾さんが、シン・リジィ式でボソボソとしたポエトリー・リーディングをビートでたたみかけるような、字余りロックンロールスタイルを取らなかったのは、やはり英語と日本語の音節の違いが大きいのでしょう。
ポエトリーといえば佐野元春さんですが、佐野元春さんがシン・リジィ(フィル・ライノット)を意識されていたかどうかはわかりません。
https://www.youtube.com/watch?v=5_xqb416S7o
◆Thin Lizzy - Chinatown
https://www.youtube.com/watch?v=MUv8f2Mxrok
◆Thin Lizzy - Bad Reputation
https://www.youtube.com/watch?v=gqSzDJGFCgI
◆BRIDEAR - Thread Of The Light
https://www.youtube.com/watch?v=enbjKqMOTe4