2019年7月21日に行われた参議院議員選挙で、山本太郎さんが4月に立ち上げた「れいわ新選組」(「れいわ」)が、重度障害のある2人の候補者の方を当選させました。
そして、2013年に設立され、地方議会を中心に勢力を伸ばしてきた「NHKから国民を守る党」(「N国党」)は、初の国政選挙に臨み、一名(党首の立花孝志さん)が当選し議席を獲得しました。
新政党として注目を浴びたれいわとN国党の2党について、その台頭をポピュリズムとして位置付ける意見が多いようです。
まず、ポピュリズムという用語は、日本ではどちらかというと罵倒語、否定的な意味で使われることが多いのですが、アメリカで用語・概念が成立した段階では、ニュートラル(中立的)な意味の用語です。
以下のテキストで、 大賀祐樹先生は、19世紀末アメリカの人民党が繰り広げた「ポピュリズム」は、その後、20世紀初頭の「革新主義運動」や1930年代の「ニューディール」等の(歴史的にも評価されている)運動や政策等のルーツとなったと記されています。
※ 大賀祐樹先生は「希望の思想 プラグマティズム入門」(筑摩選書)の著者。
歴史的にポピュリズムを代表する、あるいは直近で強く感じさせる政治家(・団体)は以下の方です。
ヒューイ・ロング(米・第40代ルイジアナ州知事)→ 田中角栄(日本・第64・65代内閣総理大臣) → ドナルド・トランプ(米・第45代合衆国大統領) → れいわ(2019年設立)・N国党(2013年設立)
普通選挙制度が導入される前は、社会的地位や収入の高い人しか投票できなかったり、男性しか投票できず女性は投票できないという国が多かったのです。
普通選挙制度というのは、社会的地位、階級、身分、知識、学歴、性別、血筋、家系、収入などで差別されることなく、一人一票の投票ができる制度です。
誰でも一人一票投票できるということは、人を集めて束ね一致した行動(候補者への投票)を取らせることができる組織や圧力団体に属していたり、支援を受けていないと当選に必要な票を集めることが困難なシステムです。
組織、団体に属していない、または、支援を受けていないにもかかわらず、当選に必要な票を集めることができる人がいます。例えば、芸能人やスポーツ選手などの有名人がそうです。
そして、さらに、芸能人やスポーツ選手でもないのに票を集める人がいるのです。
それは、民衆(ピープル)が本当に困っていることについて、「おれがどうにかしてやる!」と立ち上がった”親分”です。
民衆(ピープル)が、経済不況や自然災害等で地域の産業・仕事が壊滅してしまったり、お金や食べるものを得ることすら困難になってしまったり、重い税(年貢)に苦しんでいるところに、「おれがどうにかしてやる!」と立ち上がった親分を民衆(ピープル)が熱狂的に支持するさま、それがポピュリズムです。
ドナルド・トランプさんは、アメリカのプロレス団体WWEのリングでWWE最高経営責任者のビンス・マクマホンさんと髪の毛(カツラ疑惑があった?)をかけ、代理レスラー同士を戦わせました。
リング下で、トランプさんは、自ら1メートル90センチの巨躯からマクマホンさんにラリアットを見舞いノックアウト。リング上では代理レスラーがマクマホン側レスラーをフォールし3カウント!マクマホンさんの頭をバリカンで坊主頭に刈り上げるトランプさん、熱狂する競技場とテレビの向こうで観戦しているはずの観客。
時は流れて、トランプさんはアメリカ大統領選挙戦で、かつて自動車関連産業等で栄えたものの、国際競争に敗れ工場が海外移転や閉鎖になったために職を失った、五大湖周辺の工業地帯(ラストベルト)の労働者たちに、「工場をアメリカに戻させる、もう一度アメリカを偉大な国にする!」と訴え、熱狂的な支持を集めました。
トランプさんは、芸能人・有名人の顔と、仕事や生活に困った人民を助けるために立ち上がる親分という二つの顔を持ちます。ポピュリストと呼ばれる理由は主にこの2点にあります。
山本太郎さん率いるれいわ新選組の選挙戦では、ジャズ・ワールドミュージック・ファンク系の音楽性の渋さ知らズオーケストラが演奏するなど、伝統的なアジアの熱狂的な選挙戦の顔を持っています。
タイの赤シャツ(バンコクの都市勢力と対立するタクシン派支持の地方出身者)勢が、選挙戦でルークトゥンやモーラム(東北部・イーサーン地方固有のポピュラー音楽)をガンガンかけ、気勢を上げて盛り上がるのと共通する光景です。
日本では、生活と政治の課題について問題提起するイベントで、地域性や土着性のあるポップミュージック(地元以外の人から見るとワールドミュージック)とコラボレーションすることは、沖縄に関するイベントでしばしば見かけます。
沖縄のロックを代表する大物である喜納昌吉さんは、一貫して平和活動に関わり、参議院議員を一期(2004年~2010年)務めています(所属政党は当時の民主党)。
喜納昌吉さんの中では生活と音楽と政治は一直線につながっているのだと思います。
それで、「NHKから国民を守る党」(N国党)です。
ドナルド・トランプさんや山本太郎さんのポピュリズムは、ネット・SNSを使った情報拡散も大いに活用しますが、身体を張った伝統的なポピュリズム、いわばポピュリズム1.0の要素が前に出ている感があります。
故・田中角栄首相が選挙戦で、どかどか田んぼ(水田)の中に入って行って農家の方とコミュニケーションするようなスタイルですね。
N国党の選挙戦ももちろん身体を張っています。ですが、それ以上に飛び道具(忍びの手裏剣のような技、主にYouTube動画)の活用、パフォーマンスが突出しています。
N国党のパフォーマンスには、品位を欠くもの、他者の名誉にかかわるもの等が見受けられ、それゆえ敵を作りました。
情報の真偽、正確さ、質は全く問わず、スキャンダラスさだけを訴求する紙やWebのゴシップメディアでアクセスを集めるコンテンツと同じ効果を狙っているのです。
知名度・支持・党勢の拡大のためだけに、ゲスな言動も、効果を計算して、確信犯でやっている感がありました。
それがどういうことかというと、選挙戦中、YouTubeには既存政党の選挙戦CMが頻繁に流されていました。一方、N国党のCMは見ていません。予算面で発注していないのではないでしょうか。
N国党を支持する、支持しないということは全く別として、既成政党に比べて圧倒的な低コストで最大効果(議席獲得)を上げ、成果を出したという戦術の点では注目すべきものがあります。
20世紀のアジアには、ゲリラ戦を闘い抜き政権を奪取したようなゲリラ戦の名手がいました(中国の毛沢東さんやベトナムのホー・チ・ミンさん等)。
N国党の選挙戦は、飛び道具(YouTube)を駆使したゲリラ戦の印象を受けました。
主張していることへの賛否や、正しいか・間違っているか、ゲスな発言、推しの名誉をディスられたことへの嫌悪・怒り等の感情は別として、戦術のみに注目するとN国党はゲリラ戦の闘い方が上手く強かった。
そして結果をもぎ取った。
有名人・タレントでもなく、有力な組織・団体の後ろ立てもないキワモノ・泡沫候補扱いされていた集団が、国政選挙で国会議員(参議院議員)の座をもぎ取ったという事実。
繰り返しになりますが、主張への賛否や品位の面などは別として、闘い方のみに注目すると、N国党の戦術や引き起こしたムーブメントは、いわば”ポピュリズム2.0”ともいうべき現象で、今後の影響を含め注視すべきものと感じます。
◆Dirty Honey - When I'm Gone
米プロレス『WWE Extreme Rules』テーマ曲。
◆Elvis Costello and Mumford & Sons - The Ghost of Tom Joad & Do Re Mi Medley (Acoustic Cover)
https://www.youtube.com/watch?v=-Idt8wqSSeE
◆Tom Morello - Woody Guthrie At 100! / "Ease My Revolutionary Mind"
https://www.youtube.com/watch?v=5fkdWa4raZ0
◆Southern Pacific and Emmylou Harris - A Thing About You (Live at Farm Aid 1985)
https://www.youtube.com/watch?v=bkdhH_qK68k
爆音でエモコアを聴きたくなる時がある。
— 大賀祐樹 / Yuki Ohga (@orga_yk) July 21, 2019
すっかり一般化した「エモい」という言葉、僕が使う時はいつもThe Get Up Kidsをイメージしているけど、ナウなヤングにはどれくらい伝わるのだろうか。
The Get Up KidsのLive @ The Granada Theater https://t.co/NoERzYdbIf #NowPlaying
◆大賀祐樹先生