こんにちは、1980年10月に行われた山口百恵さんの引退コンサートが地上波で放映され、世代を超えて山口百恵さんの音楽への関心が高まっています。
山口百恵さんといえば、阿木燿子さんと宇崎竜童さんというダウン・タウン・ブギウギ・バンドのソングライティングコンビ。
ダウン・タウン・ブギウギ・バンドのイメージは「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」や「サクセス」等のヒット曲のイメージだと思います。
実は、初期のダウン・タウン・ブギウギ・バンドは日本最高のブルースロックバンドなんです。
1970年代の日本のブルースロックというとどんなバンドを連想するでしょうか?
憂歌団、ブルース・クリエイション、山岸潤史さんが在籍していたウエスト・ロード・ブルース・バンド、スターキング・デリシャスはブルースはルーツにありますが洗練したソウルバンド。ビッグバンド編成のジャンプブルースオーケストラの吾妻光良 & The Swinging Boppers(吾妻さんは早稲田の学生の頃はコンボでブルースロックも演っていました)、渡米し現地メンバーでトオル・オオキ・ブルースバンドを組み成功を収めた大木トオルさん等々。
初期のダウン・タウン・ブギウギ・バンドのプロデュースは大木トオルさんが手掛けています。なのでサウンドは完璧なブルースロック。
大木 私はダウン・タウン・ブギウギ・バンドがデビューした当初からステージなどのプロデュースを担当。実は、『カッコマン・ブギ』のモデルは私なんですよ。
で、なんで初期のダウン・タウン・ブギウギ・バンドが最高のブルースロックかというと、精神性の部分なんです。
ブルースは、アメリカ社会の中で奴隷の子孫として厳しい差別にさらされていた黒人の音楽。貧困と厳しい差別の下でも、たくましく生きる庶民の生活の喜怒哀楽を表現する音楽がブルースです。
アフリカ系のアメリカ下級民の精神性を、日本社会と日本語に置き換えたのが初期のダウン・タウン・ブギウギ・バンド。
ジャニス・ジョップリンからビヨンセ、レディー・ガガ、ビリー・アイリッシュにいたるまで、現代の女性ポップス・ロック歌手にも影響を与え続けるベッシー・スミスやビリー・ホリデイ。彼女たちレジェンドは少女時代に極貧だったり虐待サバイバーだったりの社会の底辺で辛酸を舐めた過去があります。
ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの初期の作品、音楽的にはもちろん大木トオルさんがプロデュースするブルースなわけですが、凄いのが日本語の歌詞。
日本の社会の周辺(「底辺」という単語を安易に使うのは好きくない)で運命に流されあるいは時に抗って懸命に生きる名も無き人達の喜怒哀楽。その感情を日本語歌詞で表現することに成功しているのがダウン・ダウン・ブギウギ・バンドなのです。
特に阿木燿子さんの歌詞。
セカンドアルバム『続 脱・どん底』(1975年)の「ベース・キャンプ・ブルース」、「ジプシー・マリー」、「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」(いずれも阿木燿子さん作詞)で表現される世界観。
キャンプ(米軍基地)で演奏する日本人バンドマンの男性主人公は、米軍の将校クラブで真っ赤な口紅を塗った幼馴染の女友達に再会する。親しくなった米兵達は「帰ってくるからな」と(ベトナム戦争に)赴き、遺体で日本に帰ってくる。惚れた女は横浜、横須賀の夜の街を転々とし酒の席で米兵を相手にする。セントルイスブルースを下敷きに書かれた「ジプシー・マリー」は髪をブロンドに染めた日本人ストリッパーの話。
この阿木燿子さんとダウン・タウン・ブギウギ・バンドの世界観に強く惹かれ、自ら楽曲を依頼したのがアイドル歌手だった山口百恵さんなのです。
当時、山口百恵さん、17歳、ただ者じゃない。それはそうだ、当時は人気絶頂のアイドル歌手でしたが、後に日本歌謡曲の歴史を代表する歌手の一人になるわけですから。
山口百恵さんと阿木燿子さんと宇崎竜童さんが「歌謡ロック」というスタイルを開発しなければ、直接的なフォロワーである中森明菜さんも三原順子さんも存在しなかったでしょう。
もっと下の世代の相川七瀬さんや中村あゆみさんや工藤静香さん、そして現代の家入レオさんやBAND-MAIDにいたるまで、全く違う音楽になったはずです。
-山口百恵さんの曲みたいに、陰りがある曲調の方がいい?
(BAND-MAID)彩姫:あぁ、そっち系の方が好きです!
中期のBAND-MAIDのサウンドを手掛けたビーイングとは、1970年代に山口百恵さんや中森明菜さんが切り開いた「歌謡ロック」というスタイルを、安定して大量に供給できるようにした工房なんですよね。
◆Fleetwood Mac - Shake Your Moneymaker (Audio)
『百恵ちゃん祭り』(1975年)ではビッグバンドの演奏で、アニマルズの「朝日の当たる家」とかディープ・パープルの「ハイウェイ・スター」とかダウン・タウン・ブギウギ・バンドの「スモーキン・ブギ~カッコマン・ブギメドレー」とか、ロックをいろいろ演っています。アプローチはハンブルク時代から初期にかけてのロックンロールとリズムアンドブルースのカバーを得意とした時代のビートルズに近い。それが翌年の阿木燿子&宇崎竜童による「横須賀ストーリー」につながっていく。
https://www.youtube.com/watch?v=apL8sYeuOks
◆Shake Your Money Maker~スモーキン・ブギ
ダウン・タウン・ブギウギ・バンドのヒット曲「スモーキン・ブギ」は、昨年亡くなったギタリスト、ピーター・グリーン期のフリートウッド・マックによるエルモア・ジェイムズ「シェイク・ユア・マネー・メイカー」カバーを下敷きにして作曲されている。UKブルースロックを下敷きにした作曲法が、レッド・ツェッペリンの「ロックン・ロール」をモチーフにした山口百恵さんの代表曲「ロックンロール・ウィドウ」へと発展します。
https://www.youtube.com/watch?v=r3cHGDRxgBw
◆【MV】黒い雨 / IKEMEN
2015年に、咥え煙草モクモク、内藤やす子さんですかという薄幸感と蓮っ葉感全開で疾走する昭和の化石みたいた歌謡ロックを演ったのは凄いと思う。のらさん(vo.)のIKEMEN。
https://www.youtube.com/watch?v=bSO-_GLGcI8
◆【少女A / 中森明菜】covered by SaToMansion【MV】(Live at 下北沢SHELTER 2019.2.2)
やっぱ歌謡曲だろ!!ちなみに山口百恵さんや中森明菜さんの歌謡ロックの名曲のギターは伝説の名工、矢島賢さんが弾いています。早くからBAND-MAIDはB'zの系譜を継ぐ歌謡ロックだと看破していた『ヤングギター』誌に「山口百恵のロック・サウンドを具現化した巨人、矢島賢の功績」の記事があります。King Gnuが「飾りじゃないのよ涙は」をカバーしてますね。
https://www.youtube.com/watch?v=NSStLc0esfo