タイ・バンコクのAKB48の姉妹グループBNK48がデビュー1年あまりで国民的大人気になった理由、背景はもちろん一つだけというわけではありません。
女性アイドルグループとそのファンという観点からは、2017年から2018年にかけて、”タイ国内の強力な競争相手の不在”の状況があったように見えます。
本来ならば、日系のノウハウを投入したアイドルグループの立ち上げ(現地生産)に対し、タイ・バンコクの地場・民族系のアイドルを代表するkamikazeレーベル所属の女性アイドルグループ群が迎え撃つ立場にあったのではないかと思っています。
しかし、kamikazeレーベルは、2015年に中心人物であったエグゼクティブプロデューサーのエーフ・ナロンサックさんの離脱に伴い、立て直しを図るも、2016年から2017年にかけて大幅に戦線が縮小し、実質開店休業状態(殆どのグループが卒業、移籍、解散、活動停止等)になってしまっていました。
このことによって、タイの芸能界において『権力の空白』ならぬ『女性アイドルグループ覇権の空白』が生じていたように見えるのです。
そして、高度に洗練されシステム化された『広告・販売促進業パッケージとしてのアイドル』のノウハウを持ってタイの芸能界に参入したアイドルグループは、どうも日系のBNK48が初めてのように見えます。
BNK48は、顧客企業(クライアント)の広報、製品の広告、販売促進企画として、対象のイメージにマッチしたメンバー(6人のシックスパッケージ、16人のフルパッケージ等)を選抜メンバーとして提案し、その企業・製品に特化した特注衣装をデザインし、ブランドアンバサダー、プレゼンター等を務めるビジネスの仕組みを採用しています。
おそらく、このような『広告業・販売促進業としての女性アイドルグループ』というノウハウは、日本でAKB48グループと広告代理店が共に開発し練り上げてきたものでしょう。そして、東南アジアでは、インドネシアでJKT48と運営(電通グループインドネシア)が実行しノウハウを積み上げてきたはずです。
芸能・音楽に関してはタイのレベルとノウハウは非常に高いように見えます。しかし、芸能・音楽に、洗練・システム化した広告業・販売促進業を一体化して機能させるというビジネスの仕組みは、タイにおいてはまだ充分に育っていなかったのかもしれません。
もしそうだとすれば、これらのシステム化された広告業・販売促進業のノウハウは、数か月では真似ができるものではありません。
そして、BNK48が発足した2016年から今年2018年まで、タイ経済は景気回復基調にありました。
実質GDP成長率は、2016年、2017年がそれぞれ3.2%、3.9%。一人当たり名目GDPは、それぞれ5,970ドル、6,591ドルで、インフレ率はそれぞれ0.2%、0.7%です。
2018年の状況は、タイ・国家経済社会開発庁(NESDB)によれば(8月20日発表)、年第一四半期と第二四半期の実質GDP成長率はそれぞれ4.9%、4.6%。
2017年第3四半期から2018年第2四半期まで、4四半期連続でタイの潜在成長率とされる4%以上の成長が続いています。
大勢は、タイは景気が良いとみているのです。
※数字はJETRO(ジェトロ、日本貿易振興機構)ウェブサイトより引用。
https://www.jetro.go.jp/world/asia/th/
家計・個人消費も好調で、BtoC企業(消費者向けに物・サービスを売る企業)がこぞってBNK48を広告・販売促進に起用しました。
個人消費が好調ならば広告を打てば商品・製品はどんどん売れますし、BNK48を広告に起用すればもっと売れるとあれば、BNK48に仕事をオファーしない理由はありません。
上述のようにBNK48は(競争相手と比べ)広告業・販売促進業としてのフレームが占めるウェイトが大きいため、タイ経済の好調がBNK48の躍進を後押ししたと言えるでしょう。
BNK48の広告・販売促進・芸能がミックスされ相乗効果を上げるよう組まれたプラットフォームは、それに乗り、使いこなし、自身の本来の才能や魅力を開花しアピールすることによって、『普通の女の子』(ガール・ネクスト・ドア)が、ゼロスタートで一気に人気アイドルになれる可能性のあるシステムのように見えます。
タイ・バンコクの現地で、BNK48の人気を実感した方の意見に、「ラッピング車両(バス・電車)、公共交通機関内の車内の広告、ディスプレイに流されるCM映像等でBN48のメンバーを目にした。」というものがあります。
これらの露出・媒体は、広告業の『交通広告』というカテゴリです。
『交通広告』は、BNK48の”運営”であるBNK48 Officeに経営参加するタイの屋外広告企業大手PLAN Bメディア社の事業領域です。
渋滞名物のタイでは視聴される時間が長く効果が期待されるらしい道路沿いの巨大看板は、PLAN Bメディア社の事業領域の『屋外広告』です。本来の意味のBillboard(ビルボード=看板)です。
今年(2018年)の4月に公開され話題になったタイポップのMVに、ブラックミュージック・シティポップ系のバンドJetset'er の「เพ้อ」(YOU)があります。
このJetset'er の「เพ้อ」(YOU)は、オープニングの屋上の2連巨大看板、商業施設(デパート)壁面の4連はめ込みビジュアル、商業モール内の家電店、CDの複数買い、ハンドシェイクイベント(握手会)、ハンドシェイクカード(握手券)、スタジオでのレッスン風景、SNS・インスタグラムでのファンコミュニケーション、Pantip(タイの国民的掲示板サイト)での情報収集、そしてメンバーのゴシップ報道とバッシング(たぶんモデルはあの件)等のタイの女性アイドルグループの盛り上がりに関する現在のあれやこれやの情景を描写しています。
一見してわかるように、これらは日系アイドルグループ、具体的にはBNK48に焦点を当てたパロディです。
(特にヲタに焦点を当てたティーザー・予告編は結構強烈です。)
実際にMVのコメント欄もBNK48に関連して深刻にならない程度に軽く炎上し話題になったようです。
『神は細部に宿る。』と言われますが、パロディは細部の作り込みがクオリティを決定します。
Jetset'er の「เพ้อ」(YOU)のMVは、上述の日系アイドルグループ(具体的にはBNK48)周辺の風景の描写の細部に力が入っています。と同時に、BNK48がなぜ大人気になって成功したのかの理由・背景を探るうえでもヒントになりそうな内容でもあります。
Jetset'er の「เพ้อ」(YOU)のMV企画・公開時点では、まだ大手屋外広告企業PLAN Bメディア社のBNK48 Officeへの経営参加は実現していません。ですが、当時からサッカーチームとタイアップしたプロモーションや交通広告や屋外広告の展開など、PLAN Bメディア社BNK48との間のタイアップが進んでいた様子が見受けられました。経営参加以前から両者の協業があり、それらの事象をJetset'er の「เพ้อ」(YOU)のMVの企画者は子細に観察し、MVに反映させています。
ソウル、ファンク、ロックバンドのJetset'erは、「เพ้อ」(YOU)のMVで、批評精神(?)、興味などの視点(フィルター)を通して、屋外広告(CGで合成されたものでしょう)を象徴とする『広告業としてのアイドル』や、華やかな消費の場としての商業施設(ショッピングモール)を描写します。
Jetset'erが「เพ้อ」(YOU)のMVで描写した、広告業としての女性アイドルグループと大型商業施設の相思相愛の関係は、半年後に、より巨大な規模の現実としてタイ・バンコクの消費経済の頂点に姿を現します。
それは、2018年9月15日に、タイ・バンコク最大級の商業施設、セントラル・ワールドで、BNK48の一期生二期生メンバーの総出演により実施された、世界最大級のデジタル・インタラクティブ・スクリーン『panOramix』披露のフリー・コンサート『BNK48 CONCERT 1ST 2GETHER At Central World』です。
『BNK48 CONCERT 1ST 2GETHER At Central World』をWEB同時配信で視聴した時、かすかに感じた既視感は、Jetset'erの「เพ้อ」(YOU)のMVによるものであったのかもしれません。
◇Jetset'er「เพ้อ」(YOU) [Official Teaser]
少々辛口なティーザー。
◇Jetset'er「เพ้อ」(YOU) [Official MV]
『パロディにおける神は細部に宿る!』
例えば、ハンドシェイクイベント(握手会)会場の壁面ボードにプリントされている『PAM』のロゴの意味は、BNK48 Officeの出資企業・パートナーのRAM(ローズ・アーティスト・マネジメント)のパロディという具合のこだわり方。
◇Jetset'er「เพ้อ」(YOU)ライブ
日本のシティポップ、AOR系のバンドだとなかなかホーンとの共演は少ないものです。イギリスのミュージシャン、ジョー・ジャクソンのバンドの全盛期を連想しました。
◇『BNK48 CONCERT 1ST 2GETHER At Central World』【Inside News Tonight 160961】
世界最大級のデジタル・インタラクティブ・スクリーン『panOramix』お披露目フリー・コンサート。
つまるところ、”アイドル”とは、資本主義・消費経済の『妖精』であり、だからこそ、経済成長著しい東南アジアの資本主義、流行のハブとしてのバンコクで大成功したのではないでしょうか?
◇MV主演は、タイの人気モデルEmma Panisaraさん。
20181216 original
20190405 update(資料動画追加)