タイ、バンコクを拠点とする日本の女性アイドルグループ、AKB48の海外姉妹グループBNK48は、2017年にリリースした「恋するフォーチュンクッキー」のタイ国内での大ヒットによって、一躍、国内外の48グループを牽引する『旗艦店』となりました。
全盛期を支えた有名メンバーの卒業、マンネリ化等で人気が落ち着いた日本の『本店』AKB48をBNK48の勢いにより援護すべく、2018年NHK紅白歌合戦ではBNK48から日本国内選抜メンバーと同数の16名が出場しました。これにより、BNK48は日本でも知られるようになりました。
「恋するフォーチュンクッキー」以降も「RIVER」は相当人気となりましたが、ポップスファン、アイドルファン以外の一般的な国民誰でも口ずさむというタイプの楽曲ではありません。
ミドルテンポの美しいメロディーと優雅さが特徴の「君はメロディー」は、『サイアムロリータ』の衣装が一般の国民レベルで話題と人気を呼び、国民的な人気曲に成長する可能性がありました。しかし、総選挙スケジュールとの兼ね合いで新曲としてプロモーションされる期間が短く、大ヒットのチャンスを逃した印象があります。
1月15日にMV発表したタイのエスニック調(ルークトゥン/モーラム調)楽曲の「ドートディドン」は、「恋するフォーチュンクッキー」を含むBNK48の過去の楽曲MV全てを上回る動画再生数記録を更新中です。(6日後の21日現在約780万回再生)
BNK48『ドートディドン』MV 500万回再生達成 | BNK TYO
ルークトゥンとモーラムそれぞれを定義し違いを明確にするという命題は、日本で言うと、ハードロックとヘヴィメタルのそれぞれの定義と違いの明確化という命題に似ています。
つまり、専門家でも一般の人が納得できるような定義、明確化、言語化をできる人はほとんどいないということです。
(数少ないハードロックとヘヴィメタルそれぞれを定義し違いについて言語で明確化している方に、美術評論家・多摩美術大学教授の椹木野衣先生が存在します。)
ルークトゥンとモーラムの出自は違います。
モーラムの出自はLao(ラーオ、現代のラオスとタイ・イサーン地方)の口承音楽です。ルークトゥンはタイの地方(イサーン地方に限らない)の日本における『歌謡曲』に該当するポピュラー音楽です。
しかし、現代の、ルークトゥンとモーラムのアウトプットとしての『カタチ』は共通していて、外国人が聴くと識別することが困難です。そして、一般のタイ人や日本のタイ音楽専門家にとってもビシッと定義することは難易度が高いのです。
以下の音楽ブログに記述のあるように、音楽スタイルは共通しているが、「標準タイ語で歌われているものをルークトゥン」、「イサーン語で歌われているものをモーラム」として区別するのがルークトゥンとモーラムを手っ取り早く区別する方法になっています。
ルークトゥン・タイランド! Loogthung THAILAND! モーラムとは?
そして、BNK48の「ドートディドン」は、イサーン語で歌われており、BNK48版モーラムと呼ぶのは正しいことになります。
ルークトゥンとモーラム、タイのイサーン音楽についての詳細は、第一人者であるDJチームの「SOI48」(名前に48がついていますがアイドルグループの48グループとは関係ありません)のインタビューをお読みください。
SOI48【インタビュー】「大物DJたちの本当のバケーションはタイなんですよ」(後編) | Mixmag Japan
それでは、なぜ、BNK48の「ドートディドン」は過去のBNK48の楽曲を圧倒する再生数を記録しているのでしょうか?
それは、ルークトゥン/モーラム調の「ドートディドン」とBNK48の他のアイドル楽曲では、聴く人の母数(=人口)が異なるからです。
一般のBNK48の楽曲を積極的に視聴するのは日本型アイドルグループのファンに限られるのに対して、ルークトゥン/モーラム調の「ドーディドン」は、タイの地方と地方出身のバンコク在住者などのルークトゥン/モーラムを好む国民にも視聴されているのです。
バンコクの人口は約830万人、バンコク圏で約1,500万人。それに対してイサーン地方の人口は約2,000万人。
「ドーディドン」はイサーン語で歌われており、明確にイサーン地方のルークトゥン/モーラムファンをターゲットにしています。
これにより、従来からの日本型アイドルグループの固定ファン層に加え、今までBNK48の楽曲に関心を持っていなかった地方の多数派であるルークトゥン/モーラムファンを新規の視聴者として取り込むことができています。
このことがBNK48の「ドートディドン」が再生数の記録を更新し続けている最大の理由でしょう。
・タイの人口6,178万人のうち、バンコク圏の人口は約1,456万人(バンコクのみは約825万人)である。
・それに対し、イサーンの人口は約2,000万人(※タイの全人口の約1/3)。つまりバンコク圏の人口を数では上回っている。
BNK48がオリジナル曲として大胆なルークトゥン/モーラム調の楽曲を制作した背景は、もちろんイサーン地方を舞台としたコメディー映画にBNK48が主演するということがあります。
また、2020年3月にタイ・バンコク公演を行うBABYMETALは「PA PA YA!!」で、タイのヒップホップアーティストF.Heroをフィーチャーしました。その際、F.Heroは、BABYMETAL側に対し、ピンやケーン等タイのエスニック楽器の使用を提案し採用させています。
ワールドミュージックとして、海外からもタイのエスニック音楽への関心が惹起されているという認識も、BNK48の「ドートディドン」における大胆にも見えるイサーン音楽へのチャンレンジの背景の一つにあるかもしれません。
◆【MV Full】โดดดิด่ง Ost. ไทบ้าน x BNK48 จากใจผู้สาวคนนี้ / BNK48
https://www.youtube.com/watch?v=Ek8itihPQgE
BNK48「ドートディドン」、そしてモバイルのソロ楽曲「ジャークジャイ・プーサーウ・コンニー」は、ともにタイ・イサーン音楽のマナーに則って制作されていると感じました。
◆ฮ่อน - เมล ตวิษา แปดแสนซาวด์ [Official MV]
https://www.youtube.com/watch?v=Wm9dqhZ768Y
◆ซิมเบิ่ง - ฮันนี่ นิชาดา【 OFFICIAL MV 】
https://www.youtube.com/watch?v=uVzDwKqvYAM
◆คิดฮอดกันแหน่เด้อ - อากิ แปดแสนซาวด์ [Official MV 4K]
https://www.youtube.com/watch?v=mLm6b0C9784
◆สบตา - อากิ แปดแสนซาวด์ [Cover Music Video] Original : แอนเดรีย สวอเรช
https://www.youtube.com/watch?v=OO5Wd4eqqAo
◆แม่ใหญ่สีบ่มักบักมี่ - น้องนุช ประทุมทอง นิลวัน COVER VERSION MV
https://www.youtube.com/watch?v=Y8ikf_KRi3c
タイ・イサーン音楽、ジャマイカのスカやレゲエに通じるこのバックビートは来ますね。
ヴァーナロッサム(旧AKS)の海外事業は、これまで、主に日本国内のAKB48グループの楽曲(日本のポップス)のアジアへの『輸出』のみでした。
アジア各国の芸能・音楽業界で培った人脈、資産をもとに、ポピュラー音楽の『輸入』は手掛けないのかと思っていましたが、BNK48「ドートディドン」の大ヒットを機に、これからは、各国現地スタッフ主導のオリジナル楽曲の『輸入』『シェア』も手掛ける可能性もあるかもしれません。