その大手広告代理店の本社ビルの別棟には(おそらく直営でしょう)ギャラリーが入居していました。『文化・芸術の発信』というもので、大手企業にはしばしばあるパターンです。
その日は、現代美術の年配、長老らしき作家さんの個展が開かれていました。年代は70歳前後でしょうか?
ギャラリー内に設備として設置されたスピーカーではなく、テーブルの上に作家さんが持ち込んだラジカセから、ブライアン・イーノの『ミュージック・フォー・エアポート』が流れていました。
現代美術のギャラリーにアンビエントミュージック(環境音楽)というのは、おでんに辛子(マスタード)、お好み焼きにソースとマヨネーズ位マッチする組み合わせなので特段違和感はありません。
現代音楽、ミニマル・ミュージック、アンビエント・ミュージック等々・・・。ジョン・ケージ、フィリップ・グラス、テリー・ライリー、スティーブ・ライヒ、そしてブライアン・イーノ、ロックファンにも人気の高いクラシックの作曲家エリック・サティ等々、アートの周辺業界では人気のありそうな音楽で、不思議でも何でもないはずですが・・・。
ただ、作家さんの年齢から、ふと音楽遍歴に関心を持ち、尋ねました。
(私)「(ブライアン・)イーノがかかっていますね。ロックがお好きなんですか?。」
(作家さん)「いえ、ロックはほとんど聴かないんですが、これ(ブライアン・イーノ)は良いですね。」
そういえば、ブライアン・イーノの『ミュージック・フォー・エアポート』の初版ブラックヴィニールレコード(LP版と呼ばれた黒い直系30CM位の丸いヴィニールに音源が録音されていたものを回転させ針でこすって音を出します。)の解説(ライナーノーツ)を書いていたのは、阿木譲さんではなかっただろうか?
たしか、お二方が解説(ライナーノーツ)を書かれていて、阿木譲さんと渋谷陽一さんだったような気がします。
が、現物がないのとCD店などネット上にも初版の仕様の詳細な情報がないので確認することができません。
当時の日本の洋楽業界(洋楽アーティストの日本側カウンター・受け皿)の状況を考えるとこのお二方が最も適切な感じもしますが・・・。
全く記憶にないのは、他にも理由があって、ブライアン・イーノの『ミュージック・フォー・エアポート』の解説(ライナーノーツ)が、『何を書いてあるのか、何が言いたいのか、全く理解できなかった。』というのが一番の理由でしょう。
本や記事等で、一行、ワンフレーズ、登場人物の一言のセリフだけでも印象に残っていれば、それが記憶のフックとなって書名やコラム名や作家名を手繰り寄せることができる記憶のパターンはよくあります。
当時の自分は、全くわからないものは、無理にわかろうとしたり、わかったふりをするのは健康によくないとして記憶から排除したのかもしれません。
首都圏に展開する食品主体のスーパーマーケット、『コモディイイダ』で流れるローリング・ストーンズやドゥービー・ブラザーズらの洋楽ヒット曲をもためらわずに『歌の無い歌謡曲』化する庶民的なBGMが非常に好きです。
しかし、六本木や日比谷のような都心のど真ん中に開発された商業施設兼オフィスビルのパブリック空間やギャラリーのようなシチュエーションで流れるBGMは、「『歌の無い歌謡曲』よりか、ブライアン・イーノのような『プレミアムなBGM』が合うのだろう。」というレベルのミーハーなブライアン・イーノリスナーなのでした。
個人的には、ミッドタウンやヒルズのパブリックスペースで、サンバな「コモディイイダの歌」を流し、六本木や日比谷を、板橋(東京都板橋区)、平井(東京都江戸川区)、松戸(千葉県)、川口(埼玉県)的なサンバな祝祭空間にしてもいいのじゃないかとも思います。
阿木譲さんは、音楽評論家、編集者、DJ等の肩書で経歴を紹介される、日本のサブカルチャー・カウンターカルチャー、特にロックにおいて非常に大きな役割を果たし影響を与えた方です。メインカルチャーでも松岡正剛さんとガチで対談されるほどの力量をお持ちの方でした。
伝説の「Rock Magazine(ロック・マガジン)」やレコード解説(ライナーノーツ)における阿木譲さんの文章は、私には何を書いてあるのか、何をおっしゃりたいのかほとんど理解できなかった印象があります。
「何をおっしゃりたいのか理解できないということだけは理解できる。」というレベルです。そのため阿木譲さんの檄文のような文章に深入りすることはできなかったのが実情です。
そんな私でも、阿木譲さんが、1970年代半ばから後半にかけて、ブライアン・イーノやイギリス発のシンセポップ等の(当時の主流の大衆音楽と比べると)非常に先鋭的な音楽を日本に紹介し、定着させた重要な役割、功績は知っています。
阿木譲さんは、近年の商業音楽、例えば、AKB48やその姉妹グループやEXILE関連グループ、K-POP等については、当然、舌鋒鋭く批判されていたようです。
阿木譲さんが、体調を崩され、今年2018年10月21日にご逝去されたことを知りました。
心よりお悔み申し上げます。
そして、阿木譲さんが、晩年、欅坂46の平手友梨奈さんに心酔していたらしいということも耳にしました。
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今年17歳になる欅坂46の平手友梨奈のような2001年の新世紀ベビーや、2000年生まれのミレニアムベビーの存在を見ていると、我々のような1000年代という旧世紀を生きて来た人間は、もはや居場所がないと思わずにはいられない。音楽もきっと質的・量的変化をもたらし突然変異して進化していくのだろう・・
AGI Yuzuru @AgiYuzuru 2:31 - 2018年3月23日
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<引用終了>
BNK48が引き起こした日系アイドル旋風が吹き荒れるタイ・バンコクで、2018年の年末、12月16日に初MV「Start Again」を発表した新人女性アイドルグループ、FEVER。
その音楽性は、かつて阿木譲さんが、心血を注いで日本に紹介し啓蒙したシンセポップです。
阿木譲さんによる『テクノポップ』という造語は、日本でヨーロッパのシンセサイザー主体の当時の新しい音楽を受容するための『概念の受け皿』として大きな役割を果たしたことを確信しています。
タイ・バンコクのロック/ポップシーンの先鋭的なミュージシャン達が作り上げたシンセポップに乗って歌い踊る欅坂46にインスパイアされたアイドルグループ。
阿木譲さんがFEVERの「Start Again」を聴かれたらどのような感想を持たれたでしょうか?
今年17歳になる欅坂46の平手友梨奈のような2001年の新世紀ベビーや、2000年生まれのミレニアムベビーの存在を見ていると、我々のような1000年代という旧世紀を生きて来た人間は、もはや居場所がないと思わずにはいられない。音楽もきっと質的・量的変化をもたらし突然変異して進化していくのだろう・・ pic.twitter.com/9kg3GfNSx3
— AGI Yuzuru (@AgiYuzuru) March 23, 2018
◇阿木 譲 a perfect day
https://agiyuzuru.wordpress.com/
◇FEVER 「Start Again」Official MV
https://www.youtube.com/watch?v=3gRD_7lsJWU