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BTS(防弾少年団)報道を契機にロック/メタル/アイドル表現と宗教・倫理・文化等摩擦のマネジメントについて再考 ~ 映画『カンボジアの失われたロックンロール』感想等

 

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あなたがインディーズシーンでロックバンドをやっていて、『かつ丼サイコー!!』という楽曲をリリースするとします。MVは岡崎体育さんやヤバイTシャツ屋さん打首獄門同好会のような今風のコメディ仕立てで行くことにしました。たとえば、豚の着ぐるみが踊りまくる中、バンドメンバーがかつ丼を食いまくってドンブリを積み上げるとか。めでたくMVが話題になって動員も露出も好調で、そこまでは順調。

 

そして、ネットを通じて海外でも話題になって、マレーシアかインドネシアのラウド系のロックフェスに呼ばれたとします!「ヤッター!初の海外ライブだ!」

 

「でも待てよ。現地は豚肉が禁忌のイスラム教の人口が多いはずだけど、『かつ丼サイコー!!』パフォして大丈夫なのかな?」

 

 

うーん、何が起こるかなんてそれはわからないです。

 

「あれは東アジア(日本)の食文化だから」といって笑って大受けして観てくれるかもしれません。もしかしたら原理主義的主張をするグループから『日本のロックバンドがムスリムを冒涜している』と槍玉にあげられ、日本に対する排斥運動が燎原の火のように広まり、街頭でバンバン車がひっくり返されるような大騒ぎになって、バンドは出国できなり、重大な外交問題に発展するかもれません。

 

受けるかもしれないけど、大外交問題になるかもしれない。あるいは観客がほとんどいなくて、全く話題にならないかもしれない。もしかしたら3年後にSNSに投稿されていた動画がきっかけで炎上するかもしれない。

 

あるいは、ステージでコウモリの頭を食いち切る、ヘビを食いち切り、ステージにまいたヒヨコを踏み潰す。(前者はブラック・サバスオジー・オズボーン、後者は沖縄の伝説的ハードロックバンド、コンディション・グリーンのかっちゃんが1970年代に実際にやったとされています。)

 

観客に受けるための激しいパフォーマンスが社会的に問題視されても、インディペンデントでインディーズで活動しているバンドなら誰もケツを持ってくれません。 

 

しかし、世界規模で活動しているバンドやアイドルグループはそうではありません。

 

ビジネスとして関わる大人、関係者が大勢いるからです。

 

  

 

 

1.音楽表現と宗教・倫理・文化の摩擦(キリスト教保守派によるロック/メタルへの批判を例に)

 

 

アメリカの保守的宗教界(キリスト教保守派等)からは、自殺者や殺人・傷害等の犯罪者が『ヘヴィメタル』を聞いていたという事実があると、悪魔信仰、キリスト教冒涜等のヘヴィメタルが自殺や犯罪を助長するもので規制するべきだという排斥論が真剣に起こることがたびたびあります。

 

しかし、自殺者や犯罪者が、ワーグナーシューベルト、あるいはMJQ(モダン・ジャズ・クインテット)やチャーリー・パーカーを聞いていたことが分かったとしても、それらの音楽に対する排斥運動が起こる気は全くしません。

 

背景には、ハードロック(レッド・ツェッペリンのフォー・シンボルズ等)やヘヴィメタルには、ヨーロッパへのキリスト教伝播以前の土着信仰(ペイガニズム)や悪魔信仰(サタニズム)や神秘主義、あるいは明確な反キリスト教ブラックメタルマリリン・マンソンら)等にアイデンティティを依拠するバンドとそのファンダムが存在することがあります。

 

それらは当然のこととして欧米の主流的な宗教・思想であるキリスト教とそれに依拠する倫理観、価値観と摩擦を起こしやすいのです。

 

そして、日本では、そういった海外現地の宗教的、倫理的、文化的摩擦の『温度』がわかりにくいので、危険性に気付かないまま、ロックやメタルのコスチューム・ファッションを身に着けるケースが多いことも事実です。日本はキリスト教が支配的なわけではないので問題は起こりません。

 

日本国内限定なら信仰(反信仰)、思想、社会の分断等の状況を考えないで模倣することは大丈夫なのですが、海外に出る時は意識する必要もあるのでしょう。

 

2014年に日本のメタルダンスユニットのBABYMETALが欧米へ進出しました。

BABYMETALは日本国内およびアジアを主に活動していた前年、ステージでマリア像を破壊する演出をしています。(「LEGEND “1997" SU-METAL聖誕祭」)

 

この演出および映像リリースに関して、日本国内で、海外進出時にキリスト教圏でキリスト教を冒涜していると批判される恐れがあるとマネジメントに対する懸念・批判が寄せられたことがありました。

 

結果として問題視されることはありませんでした。

大きな理由は、海外で世間一般に大きな影響を及ぼすほど有名になったわけではないからでしょう。特定のカテゴリでやや話題になったくらいでは、注目され過去の作品を掘り起こして問題視される危険性は少ないのです。

 

全米1位とかになると状況は全く違ってきますが。

 

キリスト教保守派によるロック批判で度々やり玉にあがるマリリン・マンソンは、全米アルバム総合チャートBillboard 200で1位を2作、トップ10入りを9作記録しています。

 

このレベルの売上、社会的影響度を持つようになると、宗教や文化と摩擦のある表現はやり玉にあげられ、叩かれる可能性は高くなります。

 

そして、往年のジョン・レノンマリリン・マンソンらの異端的態度や発言に対して道徳的、倫理的立場から批判をしても本人達に影響を与えるのはかなり難しそうに感じます。

 

国・信仰・文化等によって相反する視方のあることに関しては、強い信念を持ってそのジャンルの表現に取り組んでいるアーティストについては、信念を尊重しつつ反対派・規制派と落としどころを探る姿勢で臨むのが現実的でしょう。

 

しかし、情勢判断がまだ不十分な10代から20歳前後のアイドルやロックバンドに関しては、『大人』が積極的に介入して、リスクを未然に防ぐべきと考えます。

 

ティーンエイジャー(10代)の代弁者』、『(ジェームス・ディーン的な)理由なき反抗』のようなパブリック・イメージで世に出て(売り出されて)、社会的あるいは意識的な姿勢を取っているとしても、大人の描いた(イメージ戦略やマーケティングという)枠を外れない範囲での演出が許されているというケースも少なくないように見えます。

 

もちろんそういった状況は、成長しようとするアーティストと管理しようとする『大人』のせめぎあい、緊張の中で両者の力関係は流動していって、最終的にアーティストが自己イメージを完全にセルフプロデュースしていくようになり(大人が誰も管理できなくなるほど大きくなり)、大人が人格イメージをあれこれから手を引いて、大人のマネジメントと大人のアーティスト間のビジネスの関係になるのが正しい成長プロセスなのでしょう。

  

海外向けには『避けた方が良い表現』について続けると、テレビで繰り返し問題になる『顔面黒塗り』(ブラックフェイス)も特定の地域・国(=アメリカ大陸)ではNGな表現のようです。

 

アジアは、歴史上、黒人奴隷貿易(大西洋三角貿易)のルートの範囲ではないので、アメリカと歴史を共有していません。アジア人が演じアジア人だけが見るという範囲で問題になることはありません。

 

しかし、インターネット等を通して、(特に)アメリカ合衆国から視聴されたり、日本在住のアメリカ合衆国出身者が視聴したりすることがあると差別と指摘される可能性があるようです。

 

アメリカのジャズのルーツの一つでもある19世紀のミンストレル・ショーで用いられた白人による黒人の扮装、ブラックフェイスは、黒人に対する差別を誇張した表現として20世紀後半の公民権運動等を通して中止されてきた歴史的経緯があるからです。

 

国や地域や宗教や社会によって、『目の敵にされやすい音楽ジャンル』もあれば『避けた方が良い表現』もあります。

 

そういうことを、10代や20歳前後のミュージシャンがすべて精通しているとは限りません。むしろ知らないことも多いのが普通でしょう。

 

国や宗教や歴史認識や文化によって存在する『問題となる可能性のある表現』について配慮し、ミュージシャンをサポートするのは、マネジメントを担当する『大人』の責任です。

 

 

K-POPのヒップホップグループ(アメリカではボーイバンドというカテゴリで呼ばれています)BTS防弾少年団)は、2018年に全米アルバム総合チャートBillboard 200にて2作連続1位を記録しました。

 

前述のマリリン・マンソンの全米1位は2作ですから、このくらいになると、ミュージシャンをサポートする『大人』が、全方位で相当脇を締める必要がある存在になるはずです。

 

 

2.多国籍グループ化は宗教・文化的摩擦を回避するのに有力な手法だが『お金』もかかる

 

  

K-POPの最重要人物の一人が、2PM、GOT7、TWICEらを人気者に育てたJYPエンターテインメント(以下JYPと表記)の創業者であるJ.Y.パーク(パク・ジニョン)さんです。

 

BTS防弾少年団)の育ての親ことBig Hitエンターテインメントの代表、パン・シヒョクプロデューサーは、JYPでJ.Y.パークさんのもと、ショービジネス、音楽制作、マーケティング、プロデュース等全般の薫陶を受けました。

 

パン・シヒョクプロデューサーは、2005年に独立しBig Hitエンターティメント(以下)を設立し、JYPと協調しプロデューサー業を行っていきます。そして、2010年に防弾少年団BTS)の企画を開始します。

 

K-POPガールズグループのパイオニアとして、TWICEやBLACKPINK(ブラックピンク)をはじめとするほとんどのK-POPガールズグループのリスペクトを受けているWonder Girls(ワンダーガールズ)。

 

KISS ME FIVEをはじめとするタイの女性アイドルグループ群にもWonder Girls(ワンダーガールズ)の強い影響が感じられます。

 

また、日本のAKB48の「涙のシーソーゲーム」(2010年、「ヘビーローテーションカップリング曲)は、ブラックミュージックのレトロモチーフという点で、前年(2009年)にWonder Girls(ワンダーガールズ)の「NOBODY」がBillboard HOT100(全米総合シングルチャート)で76位にランクしたことへのインスパイアを感じます。

 

Wonder Girls(ワンダーガールズ)のアメリカ進出は、J.Y.パークさんとともにパン・シヒョクプロデューサーが地道なプロモーション活動を先導したといわれています。

 

JYPの創業者J.Y.パークさんには、アメリカで生活していた経歴や音楽ビジネスでアメリカ進出をめざし、SNSマーケティング全盛以前にWonder Girls(ワンダーガールズ)の地についた地道なプロモーションをしたことから、泥臭い異文化コミュミケーションをしてきたという印象があります。

 

そして、アメリカ経験をベースに、アメリカからアジアを見るという英米的な俯瞰した視点をビジネスに活かしているのではないかと想像しています。

 

例えば、JYPの世界戦略(海外進出戦略)が、徹底した『多国籍化』を採用している点です。

 

GOT7は米、香港、タイ、韓国、TWICEは韓国、日本、台湾と複数カ国出身者で構成しているのが目立ちます。

 

メンバーの出身国が複数であると、海外市場に進出するうえで、出身各国で人気を得られるという積極的なメリットがあります。また、メンバーの出身各国全てと同時に外交関係が悪化する可能性は低い等、リスクを分散できるメリットもあります。

 

また、日常のグループ活動そのものが、異文化コミュニケーションの連続になりそうです。

 

「うちの(出身)国ではそれ(この表現)はあかんねん。」

 

「へー、そうなん、なんで?」

 

「これこれこういうことがあってな、こうこう感じる人がいてんねんよ。」

 

「はぁー、そうなん。学校では全然教わらんかったわ(全く反対のことを教わっとったわ)。知っといてよかったわ。」

 

という具合に、グループの日常のコミュニケーション自体が、海外進出の際の摩擦回避に大きく貢献しそうです。

 

また、「K-POP 新感覚のメディア」(岩波新書)には、K-POPがヒップホップを内包化していくプロセスにおいては、アメリカから(ヒップホップ文化と技術を持って)韓国に移住した韓国系アメリカ人達が大きく貢献していることに関する記述があります。

 

韓国系アメリカ人の移住は、スキルと同時にアメリカの文化や倫理や慣習を紹介する貢献も当然あるものと想像します。

 

多国籍化で海外進出を図ったTWICEでも、2015年にツウィがテレビの演出で中華民国の旗を持ったことが原因で、中国と台湾の対立に巻き込まれ、政治問題にまで発展し、謝罪したことがありました。その事態の収拾には事務所は相当汗をかいたのではないでしょうか。

 

 

ただ、『多国籍化戦略』は、良いことばかりではありません。

 

『お金』がかかるのです。

 

アジア各国、あるいはアメリカでのオーディションの実施(自前あるいは提携プロダクションとの連携)、プロ野球界のようにスカウト網を持ち各地で有力なアマチュアを青田買いすること、また、韓国に練習生として呼ぶには、通訳や語学レッスン等の費用も必要になってきます。

 

出身国のスポンサー付はそれはそれでスキルや足並み揃えの課題もあるようですし。

 

ですから、多国籍化戦略は、大きなメリットがあるようですが、大手でないとなかなか採用しにくいのでしょう。 

 

大手でない資金力に限界のある中小の事務所で、正攻法の多国籍化戦略は採用が難しいとすれば、ゲリラ戦で世界市場を狙うことになります。

 

ゲリラ戦の有効な武器は、今日ではやはり飛び道具(SNS)の活用でしょう。

 

低コストで世界中に情報を発信し、コミュニケーションとファンサービス向上を図るには、ファンダムによる自主的な情報発信が盛り上がることを推奨する等、SNSを最大限に活用することが有効です。

 

同時にコントロールできないSNSは炎上必至のメディアでもあります。

 

仕事として、SNSを積極的に活用する戦術を採用したならば、炎上からアーティストを守るのはマネジメントの責任のように思います。

 

 

ビートルズジョン・レノンは、オリジナルドラマーのピート・ベストへ解雇を言い渡すことをマネージャーのブライアン・エプスタインに命じました。

 

気乗りがしないでいるブライアン・エプスタインに対しジョン・レノンは、

 

「それがお前の仕事だろ。」

 

と、言い放ったといいます。

 

アーティストがクリエイティブな仕事に専念できるように、もめ事、面倒事等を引き受け処理するのはマネジメントの仕事なのです。

 

(東京ドームのポール・マッカートニー公演ではポールのキャリアを振り返るスライドと音源のプレショーが流されたのですが、おそらくシルヴァー・ビートルズハンブルク時代の4人の写真の最も左のリーゼントがピート・ベストに見えて驚きました。)

 

 

3.ドキュメンタリー映画カンボジアの失われたロックンロール』の感想

 

 

ドキュメンタリー映画カンボジアの失われたロックンロール』の完成度の高さのポイントは、アメリカからアジアを見るような『英米流の俯瞰力』と『アジアの現地に根付いて暮らす生活者の実感』の両立・バランスにあります。

 

大国間の東西冷戦や大国のインドシナ半島経営方針の「俯瞰視点」と、現地に生まれ根付いて暮らす「生活者」の視点の双方がバランスし、螺旋のようにストーリーが進んでいく編集になっています。

 

音楽の誕生、流行、隆盛はもちろん、音楽家の生命(多くが殺されました)を左右したのが、当事者でもファンでも芸能界でもなく、フランス、ベトナム、タイ、中国、(旧)ソビエト連邦アメリカ合衆国等の大国の政治的意思と大国間のパワーバランスだということがスクリーンにはっきり映し出されているのです。

 

大国Aの内部の意思決定で、対ベトナムあるいは対カンボジアをどうするかという路線が決定し(例えば推進派が慎重派を退けるという形で)、今度は大国Aと大国Bのバランス(外交や武力衝突等)で対ベトナムや対カンボジアに対する政策が実際に実行され、その結果として、才能があって主張もあるようなロックミュージシャンは強制移住先で処刑され亡くなりました

 

一人ひとりのミュージシャンや音楽ファンには影響力を及ぼしようもない、どうすることもできない大国の意思決定と、それに振り回され(生命まで奪われ)たカンボジアの国民生活を、(政権による廃棄から逃れた)レコードジャケットとレーベルとレコード音源とカンボジア語歌詞を「語り部」にしてストーリーを語らせ、つないでいくというもの凄い仕事でした。

 

 

カンボジアの失われたロックンロール』を見て、改めて、歴史を知ることは重要だと感じました。

 

 

 

◇資料等 

 

 

◇スティーヴ・アオキ(Steve Aoki):「ウエイスト・イット・オン・ミー・フィーチャリング BTS」(Waste It On Me feat. BTS) 

www.youtube.com

ピンク・フロイドPink Floyd):「アナザー・ブリック・イン・ザ・ウォール、パートⅡ(Another Brick In The Wall, Part Two)」   

ロック史上有数の巨大バンド、ピンク・フロイドPink Floyd)と『アニマルズ』、『ザ・ウォール』(ロックを代表する名盤)等を主導した元メンバーのロジャー・ウォータースについては、アーティストの音楽表現と国、宗教、政済界、メディア等との意見の相違・対立のケーススタディとして必須でしょう。

デザイナー、衣装担当者のヨーロッパの歴史に対する認識不足等により、ナチス風のミリタリー衣装を着用し問題となるケースはしばしば起こりますが、プロジェクトにロックの歴史を知る『大人』が関わっていれば防げそうにも感じます。

www.youtube.com

ドキュメンタリー映画カンボジアの失われたロックンロール』(Don't Think I've Forgotten: Cambodia's Lost Rock & Roll)予告編

www.youtube.com

 

<参考>
カトリック団体が、フランスの伝統ある大型ロックフェスHELLFEST(ヘルフェスト)に対し「サタニズムや反キリスト教的な思想を広めている」と抗議する。『HELLFEST(ヘルフェスト)2018』出演者のアイアン・メイデン、ガンズ&ローゼズ、パールジャムTOTO、ZZTOP・・・といった大御所達は、日本からの視点だとお茶の間レベルのスターのような気もしますが・・・。

www.iq-mag.net

hbol.jp 

 

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