(2020.5.6更新)
BABYMETALが主催ライブにBAND-MAIDを絶対に呼ばない、呼べない理由は単純明快です。
その理由は、
・BABYMETALの誕生と活動の目的は、メタル(ヘヴィメタル)の復権である。
・一方、BAND-MAIDは、「私たち(の音楽)は、メタル(ヘヴィメタル)ではなく、ハードロックである。」と明言している。
もう一段追求すると、BABYMETALの上位の目的とは、「メタルを通して世界を一つにする」ことなのですが、プラットフォームとしてメタルありき、メタルが大前提であること自体は変わりません。
そのため、BABYMETALのプロデューサーのKOBAMETALとしては、主催するライブやフェス等で、存在の根本理念を共有することができず、活動目的に合致しないBAND-MAIDを呼ぶことはできないのではないでしょうか。
BABYMETALは、レディー・ガガやレッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)、ガンズ・アンド・ローゼズ(註1)等の、メタルでないカテゴリの大物アーティストとOA(オープニング・アクト)・スペシャル・ゲスト等として共演しているではないか?という疑問があるかと思います。
これらは、いずれも、BABYMETAL側と海外の大物アーティスト側のコミュニケーションを推測するに、
「私たち、BABYMETALの理念・目的である『メタルの復権』をご理解していただいた上で、OA(前座)を依頼していただけるのであれば、BABYMETALとしてもお受けすることはできます。」
「はは、面白そうね(だ)。わたし(おれ)も10代の頃、サバス(ブラック・サバス)やZEP(レッド・ツェッペリン)を夢中になって聴いていたわ(ぞ)!。是非、それ『メタルの復権』でお願い!」
ということかもしれません。
BABYMETALの理念・目的の『メタルの復権』は、プロデューサーであるKOBAMETALの発言の中にも断片的に語られています。
明確に示されているのは、BABYMETALのライブ中で、キツネ様と呼ばれるBABYMETALを地上に召喚した神からの啓示(『紙芝居』)の形式で示されます(『キツネ様のお告げ』)。
日本でも海外でも、ファン層は重複しているようですけど、メタルとハードロックってそんなに違うんですか?どこが違うんですか?宗教みたいですね?とおっしゃるあなた。
いや、宗教(的)なんですよ。実際に疑似宗教的スタイル・要素を採り入れていますし。
BABYMETALが、メタル特有の、地母神信仰、異教信仰等の要素をパロディ化して巧妙に取り入れていることは、BABYMETALの初期から指摘されてきました。
BABYMETALには、スターウォーズ経由の北欧神話、ケルト神話等の要素もふんだんに盛り込まれています。
こういったコンテクスト(宗教的・社会的文脈)、北欧・ケルト神話、地母神信仰、悪魔崇拝、へヴィメタルとハードロックの違い云々については、残り字数で説明することは困難なので割愛します。
椹木野衣先生(美術評論家・多摩美術大学教授)の著作『ヘルタースケルター - ヘヴィ・メタルと世紀末のアメリカ』を、図書館等で借りられてご一読されることをお薦めします。
はしょって書くと、明確な宗教形式は備わっていないものの宗教的色彩も強い思想運動『ラスタファリズム』が、ジャマイカ発祥のレゲエ音楽の根底にあるのと同様に、ヘヴィメタルとは、『ネオペイガニズム』をベースとする意識共同体であるというような説なのです。
それ考えると、返す返す椹木野衣さんの「ヘルタースケルター」は名著。ヘヴィ・メタルをネオペイガニズム派生のある種のペイガニズム思想体と捉えると、BABYMETALがどんだけ正しい日本式のヘヴィ・メタルか痛感するね。
— 荒尾マサキ (@AraoMasaki) May 15, 2016
日本では、ハイレ・セラシエ1世を信奉し、アフリカ回帰運動に帰依しなくとも、ラスタカラーをファッションに採り入れ、タオルを振り回し、湘南の風のファンとしてレゲエコミュニティーの一員となることができます。
ヘヴィメタルも、日本に移入される際に、言語や生活、文化、歴史の相違から、思想・信仰や共同体意識を薄め、あるいは取り除いて、音楽とファッションにのみ絞って移入されているのではないでしょうか?
しかし、有能なニッポンのビジネスマンであるKOBAMETALを用いBABYMETALを地上に降臨させたキツネ様の方法は、どうも非常に巧妙なのです。「あぁ、よくあるパロディ、設定ね。」として深刻に受け止めさせないやり方で、思想・信仰や共同体意識のようなものをガチに入れてきているように見えるのです。
BABYMETALの2019年の全米ツアーのバックバンドの内、ドラマーを除くメンバーは、映画『スターウォーズ』シリーズへのトリビュートメタルバンドである「GALACTIC EMPIRE」(ギャラクティック・エンパイア)が務めています。
BABYMETALは、『スターウォーズ』経由で、北欧神話、ゾロアスター教起源の善悪二元論等の要素をその世界観にふんだんに取り入れており、世界観、価値観を共有できるバンド・ミュージシャンとして「GALACTIC EMPIRE」(ギャラクティック・エンパイア)はベストといえるでしょう。
仮に、メタルのコンテクストからBABYMETALを創った(実際にはキツネ様が召喚した)KOBAMETALからBAND-MAIDにお声がけしても、「北欧神話?、ケルト神話?、ゾロアスター教? いや、うちらただのロックンロールバンドだし。」という感じで、いまひとつかみあわない感じがするのです。
◆BABYMETALと「GALACTIC EMPIRE」(ギャラクティック・エンパイア)は価値観、世界観が共通している。(「GALACTIC EMPIRE」(ギャラクティック・エンパイア)インタビューより)
-最後の質問になりますが、今後のバンドの展望と、日本のファンへのメッセージをお願いできますか?
Dark Vader:すごく便利な言い方になってしまうけど、究極的にはBABYMETALが今やっていることを目指したいね。ああいうレベルの高い、シアトリカルでプロダクションの凝ったショーを俺たちもやっていきたいから、そういう意味では、BABYMETALのような俺たちと似たヴィジョンを持ったバンドと、これからもどんどん共演していけたら成長できると思う。
◆KOBAMETALインタビュー
KOBAMETAL氏(以下、KOBAMETAL):単純に、自分がメタルもアイドルも好きだったという理由が大きい。
「Perfume」というテクノとアイドルを組み合わせた成功例がある。これを自分が新しく作るならば、アイドルに組み合わせるのはメタル以外にはない(略)
自分はアイドルも好きだが、もともとは大のメタルファンで、そのメタルへの愛情を込めた新しいタイプのアイドルユニットとして誕生したのがBABYMETAL。
「BABYMETAL(ベビーメタル)」というネーミングは“お告げ”によって降りてきたものだ(略)
BABYMETALとは、スターウォーズ的世界観をプリキュアや少女戦隊物の主人公がダンス&ボーカルで演じ、バックトラックはメタルである、あるいは、プリンセス・テンコーのようなイリュージョンのバックがメタルである的な、作りこまれた世界観を演じる新しいタイプのエンターテインメントに見えます。
この全く新しいエンターテインメントをアメリカやイギリス等のエンターテインメントの本場に提案し、それゆえ実際に受けているのでしょう。
それに対し、BAND-MAIDは、奇装の演者がただひたすらロックンロールを演奏するという、ニューヨーク・ドールズ(New York Dolls) やトゥイステッド・シスター(Twisted Sister)らの流れを汲むオーソドックスなグラム・ロックンロールです。
音楽的基本は、加飾を脱ぎされば、60年前のロックンロールから何も変わらず、シンプルなロックンロールをひたすらライブで演奏するという泥臭いロックンロールバンドの現在形です。
つまり両者は、価値観、世界観に隔たりがあり、それゆえ、海外や日本国内の『兼オタ』と呼ばれる重複ファン層の一部が希望する、BABYMETALとBAND-MAIDの共演は実現しないだろうというのが私の予測です。
◆BAND-MAID KANAMI『私たちBAND-MAIDはヘヴィメタルではなくハードロックです。』
KANAMI: BAND-MAIDの場合メタルバンドと言われることがけっこう多いんですけど、わたしとしては、BAND-MAIDをヘヴィメタルではなくハードロックバンドとしてやっていきたいと思っています。なので、「わたしたちの中のハードロックはこういうもの」と意識して全体的に作りました。ただ、わたし自身がヘヴィメタルもラウドロックも好きで聴いているので、その辺の影響も自然と反映してゆく面もあるように、ヘヴィメタルとハードロックを明確に分けること自体正直難しいとは思います。それでも、わたしは「BAND-MAIDの音楽はハードロックだ」と思って作っています。
註1:ガンズ(ガンズ・アンド・ローゼズ,Guns N' Roses,GN'R)はハードロックかメタルか?
ラジオのパーソナリティがガンズ・アンド・ローゼズを「LAメタル」と呼んでいて驚いたことがありました。確かにガンズの初期の衣装はLAメタルに通じるものがありますが、ロック史上有数の「バカ事件」であるヴィンス・ニール(LAメタルの代表モトリー・クルーのボーカル)とアクセル・ローズの『公開決闘事件(ただしアクセルがビビッてバックレ未遂に終わった)』に象徴されるように、ガンズはLAメタル勢とは音楽性や姿勢で距離を置いているというイメージを持っていました。また、基本的にLAメタルという音楽は大音量のポップなロックンロールであり、現在のメタルという単語からイメージされる音楽とは大きく異なります。BABYMETALは多くのメタルのサブカテゴリを採用していますが、LAメタルのスタイルだけは採り入れたことがありません。バカに見えるからかもしれません。
◆The Blue Scream(ブルー・スクリーム) - Party Naughty Naughty (Live '88 11.2 @WildSideTokyo)
https://www.youtube.com/watch?v=4pnDlAq9az4
おそらくKOBAMETALは発表しているレコードリスト等から判断するにロックンロール(黒人音楽)のノリはあまり得意ではないのではないかと想像します。品揃えとして(黒人音楽の影響のある)ダンスミュージック系のレパートリーを入れるにしても、1割以下位に抑えたいのではないでしょうか。
BAND-MAIDは作編曲の要のKANAMI(遠乃歌波さん)の音楽的素養におけるジャズとファンクのウェイトが高く、黒人音楽のノリを意識的に排除しロックを再構築することはしていません。「Dragon Cries」(アルバム『CONQUEROR』)をプロデュースしたトニー・ヴィスコンティは、BAND-MAIDのボーカル彩姫(さいき)に対し、「黒人音楽もイケるね!」とヨイショしましたが、かつて矢沢永吉さんがLAでのレコーディングで演歌に通じるコブシを全開で回すと、リトル・フィートやドゥービー・ブラザーズのメンバーがブルースの「泣き」で応えたような、レベルミュージック感覚を指してのことと解釈しています。
◆BABYMETAL - KARATE (OFFICIAL)
https://www.youtube.com/watch?v=GvD3CHA48pA
◆BAND-MAID / The Dragon Cries
https://www.youtube.com/watch?v=skEkpogsmE0
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