(2020.5.12 だいぶ書き直ししました)
平田オリザさんがコロナによる自粛によって演劇界が窮地に陥っている状況を説明しようとして製造業を引き合いに出し、炎上している件についてです。
#平田オリザ さんが演劇業界の特性を製造業と比較して説明しようとして伝わらない件、「#ライブエンタテイメント(#演劇)は #製造業 に比べ #損益分岐点 が7~80%と高くしかも #在庫 が存在しないため、公演停止により即資金繰りが逼迫し文化が停止してしまう』と説明した方が伝わりやすいでしょう。 https://t.co/CIUparKJLg
— pop music fan (@anjammel) 2020年5月8日
自分でしたら、例えば次のような流れや構成のテキストでコミュニケーションを試みます。
1.演劇等のライブエンタテイメントの売上は、原則として全て当日までの前売りである。そのため、自粛による公演停止によって払い戻しによる資金の流出が発生する。また、製造業と違って公演停止中は過去に生産した在庫による売上は存在しない。そのため、即、資金繰りが逼迫してしまう特性がある。
2.演劇等のライブエンタテイメントのビジネスモデルは、市場の需要と自社の生産能力を上限に売上を回復できる製造業とは異なる。ライブエンタテイメントは、旅客機事業等と同じく「座席数」×「チケット平均単価」が売上の上限になる。そして、今後の回復期においては、当面、ソーシャルディスタンスを確保するため、例えば座席数の半減、すなわち売上の半減をも覚悟しなくてはならない。
3.演劇等のライブエンタテイメントの損益分岐点売上高は、70%~80%である。一方、コロナ後の再開時には当面、上に述べたように、ソーシャルディスタンスを確保するために、売上を半分にしないとならない可能性がある。人件費率の高いライブエンタテイメント事業の特性から、コストダウンに努めても、恒常的に満席時売上の20~30%の金額の赤字を背負っての興行になることを覚悟しないとならない。
我々は文化の火を絶やさないため、それでも興行の可能性を追求していくが、再開後も、当面、赤字興行により資金が流出し続ける事態を避けることは難しい。
4.前述のようなライブエンタテイメントの事業特性により、業界は、当面の自粛期間の資金逼迫と再開後の赤字運営により、短期的にも、中期的にも、存続が困難であるという極めて厳しい状態に追い込まれている。
演劇が「不要不急ではないか」「国民が生きていくのに必要なものなのか」と、本質を問われることは承知している。その問いかけについては、再開時には、我々の本業である表現を通して、「やはり演劇は必要なものだ」「ライブエンタエイメントの火が消えなくて良かった」と、国民の皆さんが納得していただけるようにする。
なにとぞ、ライブエンタテイメント業界が、事業の特性によって存続の危機に瀕していることについてご理解をいただき、ご支援、ご協力をいただけるようお願いしたい。
どうでしょうか?
「製造業の人」に、「おっ、うちの工場は今稼働してなくて自宅待機なんだけど、受注残が半年、在庫は3か月分あって、とりあえず給料が出てる。どうも演劇の方は、払い戻しで即、お金がなくなって失職しそうで大変そうだな」と思っていただけるでしょうか?
社会言語学に『言語変種・社会方言』という概念があり、歴史的には、武士言葉や花魁言葉等がこれにあたります。現代においては、「霞が関文学」や「社畜紙芝居」(パワポと呼ばれるロジカルシンキングを絵にしたスライド」等もこれにあたるかもしれません。
「社長向けはサマリー1枚にまとめて、取締役会向けは20枚、IR発表用に40枚。明後日までに役員用の下書きできる?」
というような発注を受け、組織内の紙芝居製作職人が、技を尽くし豪華絢爛、動画もアニメーションもグリグリ動くような紙芝居を製作したりします。
しかしながら、「結論から先に」「アニメの動き方がどうこう」等と10回位ダメ出しを受けた末、紙芝居の一枚目に大円団が来てしまっては、シェークスピアの戯曲にはならないわけです。
古今東西いかなる場所で、いかなる社会集団を相手にしても、過ぎ去った日本の平成時代に発達した社畜言語(ロジカルシンキング)で説得できるはずだというのもまた無理があるように思われます。
おおよそ芸術を志す以上、100年や200年、あるいはそれを遥かに超える月日の風雪に耐えうる表現を目指すわけで、短期的な利益の最大化を目的とした社会方言とは用いる言葉、もう一歩踏み込めば、思考の特性、脳の働きが異なることも念頭に置かなければなりません。
「コミュニケーション教育の旗振り役がコミュニケーションが不得手とはこれ如何に?!」と、ここぞとばかり詰問するのは、必ずしも的確ではないのでないかと感じる次第です。
国・官庁、経済界(企業)、教育界等のクライアントが、芸術家や演劇人に求める『コミュニケーション教育(能力)』とは何でしょうか?
そこで求められるものとは、投資家や銀行からの融資・出資の成約確度を飛躍的に向上させることを目的とする『マネーの虎』的プレゼンテーション能力や、ドナルド・トランプの「お前はクビだ!」の科白で人気が出た『アプレンティス』で表出された能力とは、方向や性格が異なるもののはずです。
◆Donald Trump's Worst Moments From The Apprentice
※LA(グラム)メタルのポイズンのvo.ブレット・マイケルズが映っています。
https://www.youtube.com/watch?v=ZZzwPBlPweo
閑話休題、炎上の対象となったのは、以下のオリジナル発言の下線赤字部分です。
この文章全体で、伝えたい、重要な内容は青地の下線部分であり、『炎上』の原因となった赤字の下線部分は、青字の内容を言うための「前振り」にすぎません。
それから、ぜひちょっとお考えいただきたいのは、製造業の場合は、景気が回復してきたら増産してたくさん作ってたくさん売ればいいですよね。でも私たちはそうはいかないんです。客席には数が限られてますから。製造業の場合は、景気が良くなったらたくさんものを作って売ればある程度損失は回復できる。でも私たちはそうはいかない。製造業の支援とは違うスタイルの支援が必要になってきている。観光業も同じですよね。部屋数が決まっているから、コロナ危機から回復したら儲ければいいじゃないかというわけにはいかないんです。批判をするつもりはないですけれども、そういった形のないもの、ソフトを扱う産業に対する支援というのは、まだちょっと行政が慣れていないなと感じます。
①オリジナル発言
オリジナル発言が「炎上」したため、『釈明』したテキストから、一部を引用(「切り取り」)します。
もちろん、製造業でも増産のしにくい分野もあります。
(たくさん中略)
ですから、ここまでの議論はあくまで、相対的に見て、エンタテイメント産業は製造業に比べて増産がしにくく、大きな儲けが見込めない収益構造を持っているという話です。
② ①が炎上したため、『釈明』したテキスト
おそらく、「こういうこと(趣旨)をおっしゃりたいのだろう」とは何となくわからないでもない、推測できるのですが、一読しただけではなかなか読み取れませんでした。
どうも、この「わかりにくさ」は、専門用語(経済、生産管理、会計等)で表現される「概念(コンセプト)」が、書き手と読み手の間で共有されていないことによるような気がします。
このケースでは、例えば、『増産』というワードがコミュニケーションを阻害しているように見えるのです。
私たちは、通常、朝、豆腐屋さんによって「よっ!、景気が回復しているんで増産してるね!」というような日常会話をしません。
そして、①のオリジナル発言と、②の『釈明』のテキストで、『増産』の単語が再び出てくるため『火に油を注いで』しまっています。
品の良くない表現を用いると、『釈明』のテキストを読んだ「製造業の人」が、「何言ってやがんだこの野郎」「喧嘩売ってんのか?」「おぅ、上等だ買ってやろうじゃねぇか」等と、お気持ちを害されるのではないかと、ヒヤヒヤしながら読みました。
コミュニケーションの齟齬が生じた原因・理由はどこにあったのでしょうか?
その原因の見立てを、再度、以下に述べます。
1.説明に説得力を持たせようと、漢字の『専門用語』を用いている。
2.その『専門用語』は、情報を発した側と受け止める側で意味が共有されていなかったり、意味すること・ものが違ったりする。
3.1.2.により、説明や釈明が、「喧嘩を売っているのか?」と、挑発的なコミュニケーションと受け止める人が出てしまった。
というような構造かもしれません。
私たちは、説明や表現に説得力を持たせたい時に、つい、漢字や横文字(外来語)の専門用語を使ってみたくなることがあります。
しかし、専門用語は、その用語が本業で日常的に使用されている業界での意味や、用語が広まって一般化されたりした時に、それぞれどのような意味で使われているか?を踏まえることがコミュニケーションの齟齬を防ぐために必要です。
この専門用語の使い方は適切か?と常にチェックしながら表現することが、コミュニケーションの齟齬を防ぐためには有効なようです。
(2020.5.10追記)
②の補足説明(『釈明』)テキストを二度ほど読み、平田オリザさんの言っていることは至極真っ当なことだと感じました。
しかし、一度目に読んだ時は、何を言っているのかわかりませんでした。
つまり、問題は、言っていることが「正しいか」「間違っているか」ではなく「伝わりにくい」「伝わらない」ことにあるようです。
8割の人は、Web上の記事を「見出ししか見ない」と覚悟する必要があります。さらに、平田オリザさんの②補足説明の文章を読んで、一発で『伝えようとしている趣旨』を理解できる方はおそらく2割もいないのではないでしょうか。
0.2 × 0.2 = 0.04(4%)
100人が、②の補足説明の文章に接して、内容理解にまで達する人は4人。
その他の96人は、「何を言っているのかわからない」「支離滅裂」「意味不明」「喧嘩を売られている」等と解釈する。
実は、②の補足文章内には、今、世間一般で伝わっているような「製造業を軽視したり、下に見るような」発言箇所は全くありません。一か所もないのです。
平田オリザさんは、「政府系等公的金融機関が緊急・低利の融資をする際のモデルとしている典型的な製造業の損益・収益構造を(金融機関が)こう設定しています」と、説明しているだけなのです。
これはかなり厳しい「コミュニケーション・ブレイクダウン」な状況ではないでしょうか。
この背景をもう一段掘り下げるならば、芸術家に特有の「イメージ型の思考」や「高い共感覚保持率」等と、一般人の思考パターンとの『ギャップ』にあるのかもしれないと仮説を持っています。
そうすると、その解決策(ソリューション)の方向性は、演劇や音楽、絵画等の芸術をベースとした『ワークショップ』につながってくる可能性もあるのでしょう。
機会がありましたら、また。
◆日本のプログレッシヴロックでは寺山修司さんの音楽を担当したJ・A・シーザーがトップだと思う人いますか?
◆Led Zeppelin(レッド・ツェッペリン) - Communication Breakdown (Japanese TV 1969)
https://www.youtube.com/watch?v=XX8YsJ0TbMc
”シーザーの音楽は、ロックという名で包括してしまうにはあまりにも日本的である。
それは、いわば密教とか呪術の世界に通底するもので、
私たちの子供時代にきいた 和讃、念仏、子守唄を思い出させる。そのオリジナリティは、メイド・イン・USAのレッド・ツェッペリンやグランド・ファンクの尻をおいかけまわすGS上りのロックバンドと一線を画している。”(寺山修司)
※ツェッペリンはUK(イギリス)だけども、USで売れましたからね。
◆演劇実験室◎万有引力 「身毒丸」 予告編
https://www.youtube.com/watch?v=yeQjBVXsaJE
◆J・A・シーザー 光来復活した大歌劇 『身毒丸』予告編
https://www.youtube.com/watch?v=2L1f7a9Sa_E
◆J・A・シーザーと悪魔の家『血獄篇』@ 青森市BLACK BOX 予告
https://www.youtube.com/watch?v=E6tCEWPNKl8